障がいをもつ子どもと母親のために「何か」を始めようとしているFさんのお話をうかがってみました。
Fさんの取り組みは、母子が一緒に過ごせるカフェや作業場などの場所づくり、母親が在宅でできる仕事のフォローなど多岐にわたります。
Fさんには一人娘がいます。
就職、結婚と人生を歩んでいたFさんですが、娘さんを身ごもってからの日々は一転しました。
切迫早産からの入院やいきなりの帝王切開、1ヶ月の早産、さらには自発呼吸ができなかった娘との対面。発達医療センターに月に数回通う暮らし。
3歳まで歩けない、動けない、発語もない愛娘とともに、療育や養護施設に通所する生活が続いていたそうです。
養護施設から見えてきた課題
インタビュアー(以下「イ」):Fさん、まずはお子さんの成長過程についてお話いただけますか
Fさん:病院や医療センター、保育園、小学校からは支援学校と、子どもが育つ過程ではこれまでたくさんの方の助けを借りながら育ってきました。
施設や学校で出会うママ友たちとのやり取りは、情報を交換したり環境を整えたりするうえでとても大切なものでした。
イ:養護施設での印象的なお話があればお聞かせください
Fさん:PTAの集まりの時に役所の人が障害者福祉手当や補助金、将来の就職などに関する話をしに来てくれました。
その中で、保護者の一人が「障がいを持つ子どもが、自立したくとも仕事の給与が多くは受け取れません。
親もどんどん年を重ねて老いてしまいます。
そのときはどうしていけばいいのでしょうか?」と質問がありました。
役所の方は考える様子もなく軽い口調で言った言葉は
「扶養から外して生活保護ですね」
想定外の答えに私たちは愕然としました。保護者の笑みは消え、ドン引きし過ぎて「引く」音が聞こえるほどでした。
子どもたちや、四六時中子どもと一緒に過ごしているママたちを「なんとかしたい」というモヤモヤした気持ちがありました。
障がいを持つ子どもとの生活とコロナ禍
イ:そんな中でコロナ禍に突入しましたが、何か生活に変化はありましたか?
Fさん:子どもが濃厚接触者だからと仕事にいけないことがあり、働きに出るのが難しくなりました。
そんな時に、偶然、東京のゲーム関連の方との繋がりができ、独立や起業の話が出てきます。
ゲーム関連の方と話していくうちに、独立すれば休暇を取りづらい今の生活を変えられると考え始めました。
大手通信設備会社でエンジニアとして働いていたし、自分に技術があるので独立は可能です。
それならば、障害をもつ子どもと親が過ごせるサロンを作りたい、外に出られないママたちが働く環境を作りたいと思いました。
もともとママ友たちと「障がいをもつ子どもと母親が一緒に過ごせるサロンや、在宅ワークのための施設があるといいね」と常々語っていたのでNPO法人を立ち上げようという話になりました。
賛同していたママ友が逃げた!それでも起業へ
イ:NPO法人をいざ立ち上げようとしたら、これまで賛同していたママ友たちが一気に引いて逃げていったとお聞きしましたが……
Fさん:そうなんです(笑)。みんないなくなりました!
驚きましたが、気持ちを新たに1人起業を模索しました。ただ、ありがたいことに徐々に人の輪ができ始めます。
起業セミナーや創業セミナーに参加するうちに、市や商工会議所から仕事の紹介が少しずつ増えだしました。
動き出す心
イ:それからは一気に物事が動きだしましたね
Fさん:2022年コロナ禍が収束してきた頃、在宅ワークや他の企業さんがくるマッチングイベントに参加しました。
パソコンは扱えるし特に新しく学ぶこともないだろう、と気楽にかまえていました。
ところが、知らない言葉や知らない技術がいっぱいあり、時代と技術の進化に驚きました。
HP作りはWordPress、プログラム作りはビットハブ、デザインはCanvaと、プログラミングやフォトショップなしで、なんでもできそう……。
昔は必要な機材が多く初心者ではできなかったことが、パソコンひとつで作業できるとわかり驚愕しました。
今なら難しい技術がいらないので「パソコンを扱えない」と言うママたちも始めやすいし、教えてあげられると思いました。
「自分の想いと時代がマッチした」
確信めいた気持ちが湧いてきました。
自分の想いと時代がマッチした
イ:今はどのような活動をされていますか?
Fさん:先日は、市からの依頼で一般の希望者向けに「動画作成教室」を開催しました。
パソコンに慣れていない生徒さんたちに寄り添って教えていくうちに、緊張気味で静かだった教室がにぎやかになりました。
「こういう動画を作りたい」と、やりたいことをどんどん話してくれて嬉しかったです。1回の予定でしたが、シリーズで動画教室をすることになりました。
みなさんの「楽しい」「ワクワク」する気持ちを引き出していきたいですね。
イ:先月、地元で女性起業家をサポートするプロジェクトが始まり、審査を経て起業サポートを受けるメンバー入りされたそうですね
Fさん:はい。これからどのように事業を広げていくのかが課題です。何をすればいいのかさっぱりわからない状態で、本当に始まったばかりです。
個人でやるのか、法人化していくのか、収益はどうするか、どこから仕事を持ってくるのか、今は全てが同時進行で、勉強しながら進む充実した毎日です。
「外で働きたくても働けないママたち」の手助けをしたい気持ちは変わりません。
「まずは始めてみようかな」と一歩踏み出して、働ける環境を作っていきたいです。
イ:1年後、5年後、どうなっているか想像してますか?
Fさん:どうなっているかわかりませんが、未来を想像した時に「楽しそう」と思ってます!
まわりのママたちも、楽しいと思っていてくれたら嬉しいです。
あとがき
はっきりと言い切る姿が力強いFさん。
すべてを受け入れて笑いに変えているFさんに、とても熱い情熱を感じました。
数年といわず、数か月後のFさんの活躍がもう楽しみです!